遺産分割の工夫で相続税の軽減を図る
2000年11月12日
山本和義税理士事務所 山本 和義
今回のセミナーは当ドックFPの山本和義税理士による「遺産分割の工夫で相続税の軽減を図る」というテーマでお話し頂きました。大変多岐に渡る内容で非常に勉強になりましたが、ここでは特に留意したい具体例を挙げます。
[ 配偶者に固有の財産がある場合の事例 ]
配偶者に多額の固有財産があるような場合には、二次相続までを考えると遺産の額によっては一次相続において配偶者が相続しない方が有利となる場合もあります。
【例】
*配偶者が相続すれば有利な分岐点の算式
税率構造の関係から遺産総額が少ないレベルでは誤差が生じますが、配偶者が取得する有利な範囲を判定する場合の目安になる算式を以下に掲げます。
(1)配偶者に固有の財産がないケース(相次相続控除を考慮しない場合)
(二次相続の基礎控除額+一次相続において配偶者が法定相続分相続する場合の遺産額)÷2=配偶者の相続分岐点
〈計算例〉
遺産10億円、配偶者+子供2人の相続人 計3人のケース
配偶者に固有の財産はないものと仮定。
(7,000万円+5億円)÷2= 28,500万円
分岐点は遺産額10億円に対して28,500万円で比率は【例】の約3‥7と一致します。
(2)配偶者に固有の財産があるケース
(二次相続の基礎控除額+一次相続において配偶者の法定相続分相続する遺産額)÷2―生存配偶者固有の財産=配偶者の相続分岐点
〈計算例〉
遺産10億円、配偶者+子供2人の相続人 計3人のケース
生存配偶者に固有の財産が1億円あるものと仮定。
(7,000万円+5億円)÷2―1億円=18,500万円
分岐点は遺産額10億円に対して18,500万円で比率は【例】の約2‥8と一致します。
以上のように、生存配偶者固有の財産の額及び二次相続発生までの期間の想定によっては、通算相続税額は大きく異なることとなるので、配偶者が高齢である場合や病気療養中である場合などでは、配偶者の相続割合の検討が欠かせません。
[ 小規模宅地等の評価減を配偶者が相続した宅地から適用を受ける場合 ]
配偶者が相続した宅地に適用しないようにした方が有利です。これは二次相続までを考慮すると大きく相続税負担が変わるからです。
設例で検証してみましょう。
■相続人 母・長男
■相続財産
・A土地(330m2)
相続税評価額3億円(評価減前)
・B土地(330m2)
相続税評価額3億円(評価減前)
・その他
相続税評価額2・4億円
A土地及びB土地共に小規模宅地等の評価減の特例(80%減額)の適用を受けることができるものとします。
〈ケース1〉
相続財産 | 通常評価額 | 減税後価格 | 一次相続 | 二次相続 |
---|---|---|---|---|
A土地 | 3.0 | 3.0 | 母3.0 | 長男0.6 |
B土地 | 3.0 | 0.6 | 長男0.6 | -- |
その他 | 2.4 | 2.4 | 長男2.4 | -- |
合計 | 8.4 | 6.0 | 6.0 | 0.6 |
〈ケース2〉
相続財産 | 通常評価額 | 減税後価格 | 一次相続 | 二次相続 |
---|---|---|---|---|
A土地 | 3.0 | 3.0 | 長男3.0 | -- |
B土地 | 3.0 | 0.6 | 母0.6 | 長男0.6 |
その他 | 2.4 | 2.4 | 母2.4 | 長男2.4 |
合計 | 8.4 | 6.0 | 6.0 | 3.0 |
ケース1・ケース2のいずれの場合も一次相続では、小規模宅地の評価減の特例後の評価で、母が法定相続分以上相続していますので、一次相続においては最も税負担が軽減されています。
しかし、ケース1では、一次相続で小規模宅地の評価減の適用を受けたB土地を長男が相続していますので、二次相続ではA土地を母から相続するときに、小規模宅地の評価減の適用を受けることができ、遺産額は6,000万円となります。
一方、ケース2では、一次相続の時に母が小規模宅地の評価減の適用を受けたB土地を相続していますので、二次相続の時には、B土地はいったん通常の評価額3億円で評価され、その後、B土地について、小規模宅地の評価減の適用を受けることにより6,000万円の評価になり、その他の財産2・4億円を合わせて遺産額は3億円となります。
その結果、相続税負担は次のようになります。
ケース1 | ケース2 | |||
---|---|---|---|---|
一次相続 | 二次相続 | 一次相続 | 二次相続 | |
母 | 0 | -- | 0 | -- |
長男 | 9,730 | 0 | 9,730 | 8,480 |
合計 | 9,730 | 18,210 |
〈判定〉
ケース1の方が二次相続まで通算して、相続税を求めると8,480万円(18,210万円 ―9,730万円)有利となります。
以上の結果から小規模宅地の評価減の適用を受ける宅地については、可能な限り母が相続した宅地について、小規模宅地の評価減の適用を受けないように工夫すれば、相続税負担は二次相続においては大きく軽減されます。
[ 相続が発生してしまった後においても、相続税の軽減のために ]
宅地の価額は、1画地の宅地(利用の単位となっている1区画の宅地をいう。)ごとに評価することとされていて、相続、遺贈又は贈与により取得した宅地については、原則として、その取得した宅地ごとに評価します。すなわち、被相続人の相続発生時の状態で評価するのではなく、相続後の取得者ごとに、かつ、利用単位ごとに行うのが原則ですが、例えば、空閑地を相続人間で分割して取得した場合には、不合理な分割でない限り、遺産分割後の利用単位に応じ評価することができます。そこで、二方路線や角地などの土地を分割する場合、複数の相続人で共有して相続すると二方路線影響加算や側方路線影響加算があり、1m2当たりの土地の相続税評価額が高い路線価の影響を受けて評価されることになります。
しかし、次の設例のような分割をしますと、それぞれの土地がそれぞれの路線価を正面路線価として評価され、土地の評価額を下げることができます。
【設例】
路線価700千円 |
---|
母と子供が 1/2ずつ共有 相続400平米 |
路線価500千円 |
路線価700千円 |
---|
母が200平米(A) 子供が200平米(B)相続 |
路線価500千円 |
<前提> 普通住宅用地 (間口距離及び奥行距離ともに20m)
奥行補正率 20m 1.00、10m 1.00
二次路線加算率 0.03
ケース1 | ケース2 |
---|---|
1平米当りの価格計算(単位:千円) | |
700×1.00=700 700+(500×1.00×0.03) |
(A)700×1.00=700 (B)500×1.00=500 |
評価額の計算(単位:千円) | |
715×400m2=256,000 | (A)700×200m2=140,000 (B)500×200m2=100,000 (A)+(B)=240,000 |
相続の総額 5,600万円 | 相続の総額 4,060万円 |
以上の設例のように土地を分割取得することにより、相続税評価額を下げることができます。一方、それぞれの土地の時価も単独で判定すると、利用しづらくなるなどの事由により値下がりすることになりますが、母の相続の時に子供が当該土地を相続して単独所有に戻すことも将来可能です。
相続税は、相続税の総額にその者の相続税の課税価格を当該相続に係る全ての課税価格の合計額で除した割合を乗じて算出されることとなっています。その割合に小数点以下第2位未満の端数がある場合には、相続人等の全員が選択した方法により、各相続人等の割合の合計値が1になるようその端数を調整して申告がなされている場合には、これを認めることとして取り扱われています。この按分割合の工夫による相続税の有利不利について、小数点第2位未満の端数調整により各人の納付すべき相続税額が変動します。この場合、相続人等の全員が選択した方法によることが要件であるので、その旨の充分な説明と合意を必要とします。
【設例1】
相続税の総額 42,880万円
課税価格 | 按分割合 | |||
---|---|---|---|---|
ケース1 | ケース2 | ケース3 | ||
長男 孫 |
6億円 3億円 |
0.66666・・・・・ 0.33333・・・・・ |
0.67 0.33 |
0.66 0.34 |
合計 | 9億円 | 1.0 | 1.00 | 1.00 |
ケース1 | ケース2 | ケース3 | |
---|---|---|---|
長男 孫 |
285,866,600 171,199,900 |
286,760,000 169,804,800 |
283,008,000 174,950,400 |
合計 | 457,066,500 | 456,564,800 | 457,958,400 |
ケース2の計算例(42,880万円×0.33)×1.2=169,804,800円
以上のことから、端数処理を工夫すれば相続税を軽減することができます。
【設例2】
相続税の総額 30,440万円
課税価格 | 按分割合 | |||
---|---|---|---|---|
ケース1 | ケース2 | ケース3 | ||
長男 孫 |
3億円 3.5億円 2.5億円 |
0.33333・・・・・ 0.38888・・・・・ 0.27777・・・・・ |
0.33 0.39 0.28 |
0.35 0.38 0.27 |
合計 | 9億円 | 1.0 | 1.00 | 1.00 |
ケース1 | ケース2 | ケース3 | |
---|---|---|---|
妻 長男 長女 |
0 118,377,700 84,555,500 |
0 118,716,000 85,232,000 |
5,073,300 115,672,000 82,188,000 |
合計 | 202,933,200 | 203,948,000 | 202,933,300 |
*ケース3の妻の税額の計算例
1. 算出税額 30,440万円×0.35=106,540,000万円
2. 税額軽減額 30,440万円×0.333333・・・・・≒101,466,665円
3. 納付税額 1-2=5,073,300円(100円未満切り捨て)
ケース1とケース3を比較すると相続税額に差はありません。しかし、二次相続まで考慮すると妻が相続税を負担することにより二次相続における財産が減少するとともに、10年内に相続が発生すると相次相続控除の適用も受けることができます。
ケース2の場合、端数処理により切り捨てられた部分に係る配偶者の税額軽減を受けることができませんので、その結果、最も税負担が重くなります。
[ 相続した財産に更地と貸地とがあった場合について ]
相続税の物納は、延納によっても金銭納付が困難な事由があること、物納適格財産であること、定められた物納順位によっていること等のすべての要件を満たす必要があります。定められた物納順位において不動産は第一順位であり、不動産であれば更地でも貸地でも同じ第一順位です。要は、金銭納付が困難な場合に、国は物納申請されたものが、物納適格要件を満たす不動産であれば収納してくれます。
貸地が物納に適しているか否かに関する主な調査項目は、1.契約当事者が不確定又は契約内容が不明確ではないか、2.社会通念に照らし、契約内容が貸主に著しく不利ではないか、3.貸付料が不当に低廉ではないか、4.賃貸料が相当期間滞納となっていないか、5. その他、契約の円滑な継続が困難なものではないか等を調査します。仮に、物納財産が不適当と判定された場合には、他の適当な財産への変更が求められますので、20日以内に物納財産変更申請書を提出し、他の貸地を新たに申請すればよいのです。なお、所定の期限までに物納財産変更申請書が提出されない場合には、物納申請は取り下げたものとみなされます。
貸地は処分可能価格と相続税評価額を比較するとほとんどの場合、相続税評価額の方が高いのが一般的です。これは、貸地の相続税評価額の求め方にその原因があります。貸地の相続税評価額の求め方は、更地(自用地)の評価額から借地権価格を控除して求めます。この計算方法では、借地権と貸地とを合計すると100%の価格になります。一見、合理的な算式に思えますが、この算式が成り立つ条件は、借地権と貸地とを一緒に処分する場合に限られます。仮に貸地だけを処分しようと思うと、ティカップのお皿だけを売りに出すようなもので、到底まともな値段では処分できません。また、一般的には投資利回りも著しく低く、かつ、借地権の返還が期待できません。
そこで、一定の要件を満たして貸地を物納できれば、貸地を時価以上の相続税評価額で国が収納してくれますので、不良資産?を整理することができます。
複数ある貸地の物納の順番は、将来高い収益の見込めないものから申請し、高い収益の見込めるものを残すようにするのがいいでしょう。例えば、駅近くで将来高い収益の見込める貸地と、駅から遠く将来とも収益はあまり見込めない貸地を相続した場合、駅から遠い土地を物納すれば駅近くの土地が残り、将来駅前再開発や区画整理等が行われたら有効に利用できます。
なお、物納が許可され、国への所有権移転の登記がされるまでの間、地代等は納税者において収受することができます。
以上のようにどの時点に於いても何らかの相続税対策を講じることは可能です。ただ、先生も言っておられましたが、出来るならば前述のような知識は個々人が持ち、本人からの提案をしない限り、たとえ税理士と言えども一方的に最善な方法を構築することは難しいとの事。
これからは自己責任の時代。「知らなかった」で損をするのも私たち個人個人です。とはいえ、専門的な知識を習得するというのも又、大変困難な事です。そんな時こそ当ドックのセミナー及び勉強会を活用頂ければ大変意義深いものになるのではないでしょうか?
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