相続・贈与の勘違い

2005年11月09日

税理士法人FP総合研究所 塚本 和美

 11月度財産ドック定例セミナーは税理士法人FP総合研究所より、税理士の塚本和美先生をお招きし、相続・贈与に関して、相談でよくある勘違い、間違いについてお話いただきました。

1.生前贈与

Q.7年前に子名義の預金を作りました。贈与税の申告はしていませんが、7年も経過していますので、
   贈与税の時効が成立して贈与税が課税されないのではないでしょうか?
   また、子名義の預金のため、私の相続財産にもならないのではないでしょうか?

A.相続対策を目的として贈与を行った場合、税務上、実質的に贈与があったかどうかが問題とされることが多くあります。
   申告漏れの多くは、名義預金に関する納税者と課税庁との見解の相違によるところが大きいものと考えられます。

〔贈与と時効について〕
・税務上の時効とは?
税務上の時効期間としての定めは、国税通則および地方税法において、原則として法定納期限から5年間行使をしないことによって、時効により消滅することとしています。ただし、偽りその他不正の行為によってこれを免れた租税については、その時効は、原則として法定納期限から2年間は進行しませんから、この場合の時効期限は、実質的には7年間となります。

・民法上の贈与とは?
民法上の贈与については、民法第549条において「贈与は当事者の一方が自己の財産を無償にて相手方に与うる意思を表示し相手方が受託を為すによりその効力を生ず」と規定されています。『贈与者による贈与の意思表示』と『受託者による受託の意思表示』をもって成立する諾成契約であることが特徴であり、贈与者による一方的な意思表示のみでは民法上の贈与は成立しないことになります。

・名義預金の時効について
父が子名義の預金を行い、何年経過していても民法上の贈与が行われていないと贈与税の時効が成立していないことになります。したがって、この場合は、子の名義の預金であっても実質的には父の預金として、父の死亡時には父の相続財産として計上することになりますのでご注意ください。

〔贈与をする際の注意点〕
1.財産移転の証拠を残す(贈与契約書の作成、通帳に現金の振込を行うなど)
2.贈与財産の管理は受贈者が行う(印鑑と通帳を渡す)
3.贈与税は受贈者が払うなど

〔贈与する財産の種類〕
原則、「現預金」の贈与を行っていただくほうが、コストもかからず効率的です。しかし、不動産でも収益性の高いもの・将来値上がりの期待できるものは贈与していただくと、より効果的な相続対策を講じることができます。

〔いくらまで贈与するのか?〕
贈与税の基礎控除は一人あたり年110万円。贈与する金額が110万円を超えると贈与税の負担が生じます。しかし、将来の相続の税率が高くなることが予想される資産家にとっては、贈与税の負担が生じたとしても、110万円以上贈与していただいたほうが節税につながることになります。

2.生命保険

Q.相続税を抑えるために生命保険に加入しました。受取人を妻に指定しています。

A.相続人が支給をうけた生命保険金は、一定金額まで非課税になるという特典があります。
   しかし、相続対策として生命保険を活用する際には、受取人を配偶者以外の子に指定をおかれたほうが有利です。
   生命保険金という非課税財産を配偶者が受け取っても、次に配偶者に相続があった際には、
   「保険金として取得した現金」として子に課税されることになるためです。

〔相続対策に生かすための生命保険の注意点〕
注意点1. 終身保険に加入する
 相続対策として生命保険に加入するのであれば、「終身保険」に加入することが必要です。
注意点2. 終身払いにしない
 長生きすればするほど支払保険料の総額が増え、将来受け取る保険金額を上回ることも考えられます。
注意点3. 受取人を配偶者にしない
 相続対策で生命保険を活用する場合、配偶者を飛ばし次の世代に移すことが必要です。
注意点4. 受取人を相続人以外の者にしない
 非課税枠を利用することができるのは相続人に限定されます。孫などが受取ると、非課税にはなりません。

3.養子縁組

Q.養子縁組が相続対策になるようですが、養子に出来る人数は1人だけなのでしょうか?

A.民法上は養子の数には制限がありません。但し税務上は制限があります。
・実子が入る場合は・・・1人まで
・実子がいない場合には・・・2人まで
あくまでも相続税計算上制限されるだけであり、養子縁組自体が否定されるわけではありません。民法上は養子縁組は数に関係なく自由に行うことが出来ます。

〔期待できる効果(一世代とばし)〕
父から孫(養子縁組済)へと財産を相続させると、1回の相続で孫へ財産を承継させることができ、相続税が1回分軽減できる効果が期待できます。但し養子である孫を二割加算対象者に含めることとなり、同じ財産であっても、子が相続する場合の相続税よりも、養子である孫が相続する場合の相続税の方が20%相当額重くなることとなりました。しかし、、二割加算の適用を受けたとしても、養子である孫に相続させた方が有利であるか、長期的な視野で検討してみる必要があります。

4.賃貸住宅の建築と借入金

Q.1.賃貸住宅を建築する予定ですが、借入金で建築したほうが相続が安くなると聞きましたので、
     建築費の支払は自己資金を少なくして借入金を多くしようと思います。
   2.アパート経営をしていますが、借入金が減ると相続税が高くなる為、繰上げ返済はしていません。

A.これは非常に誤解の多い点ですが、基本的にこれは誤りです。借入れをたくさんしても、当該借入金相当額の現金が入ってくることになりますので何の相続対策にもなりません。

ではなぜマンション建築が相続対策になるのでしょうか?それは当該『現金』を『建物』に組替えることで、評価方法が変わる為です。借入金があること自体が相続対策ではなく、融資を受けた資金等を建物に組替えることが評価の圧縮につながることとなるため、自己資金を用いて建築を行ったとしても同様の効果を得ることができます。

5.相続税の物納

Q.将来の相続に備えて、現在所有している青空駐車場を物納しようと考えております。
   他にも土地を所有しておりますが、それらの土地は他人に賃借している貸宅地であり、
   物納財産として国が収納してくれないものと考えておりますので、
   唯一建物の建っていない当該駐車場を何の活用もしないまま更地でおいています。

A.物納については、更地でなければ認められないということはありません。貸宅地であっても可能です。
   物納する財産の選択権は納税者側にありますので、税務署から他の土地を求められることはありません。

<<物納制度>>
国税は、金銭で納付することが原則です。しかし、不動産などの財産を相続した場合には相続税の納付が困難な状況となります。金銭納付の例外として、金銭以外の財産をもって納付することが認められており、これを物納といいます。

1.物納の要件
1.延納によって金銭納付が困難な事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること。
2.申請財産は定められた種類の相続財産であり、かつ、定められた順位によっていること。
3.期限内にされた申請であること。

2.物納財産の選択権
物納は納税者の申請により行われることが要件の1つです。物納に充てる財産(物納申請財)を選択するのは納税者自身であり、税務署長等は物納財産を指定することはできません。ただし、管理又は処分をするのに不適当な財産は税務署長から物納財産の変更要求がなされる場合もあります。

3.収納価額
物納財産の収納価額は、その課税価格計算の基礎となったその財産の価額によります。相続発生時の相続税評価額により相続税の納付に充当することとなります。ただし、収納の時までにその財産の状況に著しい変化を生じた時は、収納時の現況により、その財産の収納価額を定めることが出来ます。

物納の対象となる土地は更地だけでなく、他人の権利(借地権等)が存在する土地も含まれます。物納において土地は第一順位ですが、当該土地の中において順位は全くございません。

つまり、「更地」「貸宅地」「貸家建付地」等これらすべては同順位の財産であり、どの財産を物納として選択するかは納税者に委ねられています。「貸宅地」や「収益性の低い土地」があればそれらの土地を物納財産とし、収益性の上がる可能性のある土地は、将来の納税資金作りのためにも有効活用をご検討していただきたいと思います。

さまざまな土地でも、不適格要件に該当しなければ国が相続税評価額で収納してくれます。相続において利用しにくい土地を残し、収益性の高い土地を物納に出せば、将来相続税支払において減少した財産を取り戻すことは非常に困難となります。

このことからも積極的に貸宅地については物納を検討する必要があるものと考えます。

今回の定例セミナーは、参加されたオーナーの皆様もたいへん勉強されておられました。塚本先生に各項目ごとに質疑応答の時間をとって話を進めていただきましたので、どのオーナー様も持ってこられた日々の疑問をその都度アドバイス受け、有意義なセミナーとしていただきました。
(株)財産ドックでは毎月、オーナー様のマンション経営、資産運用に直結したセミナーを開催しておりますので、お気軽に最寄りの(株)京都ライフ仲介営業所にてセミナー内容をお尋ね下さいませ。皆さまのご参加お待ちしております。

株式会社 京都ライフ 四条店

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