法律の玉手箱

2005年08月20日

福井啓介法律事務所 上田 敦

1. はじめに

 今回も引き続き相続問題を取り上げるつもりでしたが、急遽予定を変更して、今回は「悪質リフォームにご用心!」と題し、この話題を取り上げてみたいと思います。

2. 広がるリフォーム被害

 昨今、マスコミで取り上げられることの多いリフォーム被害。我々弁護士が相談を受けたり、裁判手続をする場合の多くは、契約の取消や工事代金の取り戻しが問題になるケースが殆どです。しかし最近では、皆さんもご存じのとおり、悪質業者の営業マンなどが逮捕されるなど刑事事件に発展するケースもあり、大きな社会的広がりを見せています。
 では、このような悪質リフォーム被害に遭わないためにどのようにすればよいのか、また、被害に遭ってしまった場合にどのように対処すればよいのかなどを中心に、お話ししたいと思います。

3. 手口について

 まず、悪質リフォーム被害に遭わないためには、相手の手口を知っておくことが肝要です。では、悪質業者はどのような手口で契約をさせるのでしょうか。その典型的な手口は訪問勧誘です。最近言われているリフォーム被害の殆どが訪問勧誘がきっかけとなっていると言っても過言ではないでしょう。
 勧誘の方法は様々ですが、「近くを工事している業者だ。」「外から見るとお宅の屋根が歪んでいる様に見える。」などと言って無料点検を勧める手口が典型です。業者は、言葉巧みに家の中に入ろうとします。
 このような業者を家の中に入れてしまったら最後、あちこち点検した挙げ句、「屋根が落ちそうだ。」「床下が湿気で腐りかけている。」「このままではシロアリにやられてしまう。」「地震が来たらすぐに崩れる。」等と不安を煽り、工事契約の締結を迫ります。

 このような悪質リフォーム被害に遭わないためには、まず、毅然と訪問勧誘を断ること。「うちは建築関係の仕事をやっているから必要ない。」という断り方も一つかも知れません。また仮にリフォームを考えていたとしても、訪問勧誘に来るような業者の言うことは話半分に聞いて、即断せずに複数業者の見積を取るなどして、じっくり契約内容を比較対照する時間の余裕を持つことが大切です。
 聞くと簡単そうですが、業者は巧みに契約を迫ります。「私は大丈夫だ。」などと安心していてはいけません。相手はその道の「プロ」ですから、あの手この手でこちらの懐に入るタイミングを狙ってきます。そんな悪質業者に対する最大の防御策は、「怪しい業者の話は安易に聞かない。」これがまず大切でしょう。

4. 被害の実態

 マスコミでも大々的に取り上げられた埼玉県在住の認知症姉妹を狙った悪質リフォーム被害。この問題がクローズアップされるきっかけとなった事件です。この事件では、被害者の方の属性(認知症であったこと)もさることながら、契約された金額の合計が極めて高額にのぼったことや、複数の業者がまさにハイエナの如くこの姉妹に群がり資産をむしり取っていた実情が、マスコミを通じて大々的に報道されました。

 悪質リフォーム事件は、業者は違っていてもその被害には共通点が多く見られます。
 小屋裏に無数の金物、無駄な防湿シート、床下には防湿剤が必要以上に大量に敷き詰められ、床下換気扇がいくつも設置されている、家の廻りを見ると本来床下に撒くべき防湿剤が家の周囲一体に敷き詰められている・・・。そんな被害実態をテレビや新聞でご覧になられた方は多いのではないでしょうか。
 このような、専門家の目から見れば明らかに不必要、不適切な工事であるにもかかわらず、工事代金は市場単価よりも高い値段がつけられ、しかも支払方法はほとんどがクレジット払い。
 確かに、埼玉県の事例は、被害金額、事件の状況の点において、ある意味稀なケースといえるかも知れません。しかし、工事の内容などについて十分な判断ができない高齢の方などを狙って勧誘し、不必要、不適切な工事について高額の工事費用が請求された事例は、この京都でも後を絶ちません。
 もちろん、リフォーム業者の方が皆さん悪質なことをされているわけではありません。このような卑劣な行為はごく一部の業者の仕業です。しかし、このような事件が大きく報道されたことで、良質な業者の皆さんが世間から色眼鏡で見られて業務がやりにくくなっている、といった話も聞きます。このような良質な業者の方々のためにも、悪質業者の一掃は急務といえるでしょう。

5. 家族が被害に遭ってしまったら

 このリフォーム被害事件、実は決して最近の新しい話ではありません。被害自体は少し前からありました。例えば、昼間、ご主人がお仕事に出ておられ奥様お1人のところに営業マンがやってきます。営業マンは「水道局の方からやってきました。」などと言いながら水道管の点検を勧めます。業者は、水道局の「方から」などと曖昧な言い方をして奥様を安心させます。業者は、点検らしきことを一通り終えたところで、あることないことを指摘し工事の必要性を迫ります。奥様は、水道局の「方から」来た人が言うのなら間違いない、と信じてしまった挙げ句、気がつくと高額の契約を締結させられた、といった事例は後を絶ちません。
 ところが、最近問題にされている事例には大きな特徴があります。それは、被害者が高齢者であったり精神疾患をお持ちの方であったりする点です。

 このような、いわゆる社会的弱者と言われる方々を業者がねらい打ちにするのには、いくつかの理由が考えられます。一つは、契約内容を十分に理解できないことをいいことに、勢いで契約を締結してしまうには都合が良い、ということがあげられるでしょう。
 しかし、私が事件に接していて、高齢者等の方々が狙われる理由として思うのは、相手が高齢者等の場合には被害が表に出にくいという点があるように思います。
 高齢者の方々は、こういった被害にあったことに気づくと、当然のことながら非常に落ち込まれます。それとともに、このことが子供達に知れてはひどく怒られるとお考えになる方が意外に多いのです。もちろん、息子さんや娘さんも被害にあった親が憎くて怒っている訳ではないのでしょうが、怒られる親御さんの立場からすると、自分の失敗のために息子や娘に心配をかけてはいけない、という心理も働いて、被害事実をひた隠しされる方が少なからず見受けられます。悪質業者は、こういった高齢者等の方々の心理を読んで、ねらい打ちにしているように思うのです。
 したがって、もし皆さんの周囲でこのような被害に遭われた方がおられましたら、決して責めないであげて下さい。むしろ、一緒になって業者への怒りを共有してあげて下さい。このような周囲の方々の理解が、被害を表に出す大きなきっかけとなり、ひいては悪質業者一掃への道筋になるのです。

6. 被害にあった場合の対処法

―クーリングオフとは―
クーリングオフ制度とは、訪問販売や電話勧誘販売等の法律で規制されている契約において、期間内であれば消費者は販売業者に対し、書面によって、無条件で申込みの撤回や契約の解除ができる制度。
※全ての契約がクーリングオフできるわけではありません。

 まずはクーリングオフによって契約を解消できないかを検討します。クーリングオフとは、法律が定める一定要件が調えば、取消や解除の原因がなくとも契約が解消される制度です。
 また、契約締結に至った事情を理由に契約の取消しができる場合があります。
 平成16年に特定商取引法という法律が改正され、契約動機に関する不実告知を受けた場合にも取消ができるようになり、取消ができる場面が広くなりました。
 このように契約解消の方法はいくつかありますが、皆さんの事案においてクーリングオフができるかどうか、クーリングオフの意思表示はどうすればよいのか、いつまでに意思表示すればよいのか、クーリングオフ以外に契約を取消すことはできるのか、などについての判断は専門的知識を要します。またこれらの取消権は早くしなければ行使できなくなってしまう場合があります。ひょっとしたら被害にあったかも、と思われた方は、すぐに弁護士などに相談されることが必要でしょう。
 不幸にも被害に遭ってしまった場合にも救済の方法はあります。家族の方がご覧になっておかしいな、と思ったら、先ほど述べましたように、決して責めないで、ゆっくりとお話を聞いてあげて下さい。そのうえで、「被害に遭ってしまった、どうしよう。」と悩まれずに、まずはお近くの弁護士などにご相談下さい。


財産ドック機関紙フォーチュン 145号掲載

一覧に戻る

資産運用のご相談は
こちらから

財産ドック株式会社

財産ドック株式会社

〒604-8186
京都市中京区御池通烏丸東入梅屋町361-1 アーバネックス御池ビル東館3階 財産ドック事務局(京都ライフ本社内)

TEL075-256-8240

FAX075-344-4664

営業時間9:30~19:00 年中無休(盆・正月を除く)

ご相談はこちらから