法律の玉手箱

2005年06月29日

福井啓介法律事務所 上田 敦

1. はじめに

 「数ヶ月前に父が亡くなりました。母は既に亡く、子どもは私と兄の二人だけ。父が遺した財産を兄と遺産分割しようと話合いを始めたところ、兄は、父が生前残した遺言を盾に、財産は全て自分のものだと主張します。どうやら遺言は本物のようなのですが、だとすると、私は1円の財産ももらえないのでしょうか?」
 法律相談をしていると、こういう相談をお受けすることがあります。
 また、遺言を開いてみると、財産は全て第三者に譲ると書かれてあったような場合、さらには、遺産を分割しようと財産を調べてみたら、生前すでに第三者に全て贈与されていたような場合にも、同じような問題が生じます。
 では、「遺言」があれば全てこれで決まってしまうのでしょうか。はたまた、生前に行われた財産処分について、相続人は一切何も言えないのでしょうか。そこで問題になるのが、「遺留分」という制度です。

2. 「遺留分」って何?

 「遺留分」とは「いりゅうぶん」と読みます。
 これは、亡くなった方が有していた財産(相続財産)のうち、一定の相続人について、一定の割合を「遺し留めておく」財産、つまり、相続人に最低限確保しなければならない遺産をいいます。
 このような制度が置かれたのは、亡くなった方の財産処分の自由と、一定の相続人の相続財産に対する権利とを調和させるため、と一般には説明されています。
 相続財産は、元はといえば亡くなった方の財産ですから、生前にどのように処分しようと、それは亡くなった方の自由のはずです。
 しかし、夫婦や親子の場合、名義上は亡くなった方のものであったとしても、その取得には他の共同生活者がなにがしかの貢献をしている場合は少なくありません。
 また、家族の生活が、亡くなった方の財産に依拠していたような場合、この方々の生活のために、財産を一定の割合残しておくことが望ましいでしょう。
 そこで設けられたのが「遺留分」という制度なのです。

3.「遺留分」は誰が、どれだけ主張できるの?

(1)遺留分は、親族なら誰でも主張できるわけではありません。
 遺留分を有する者について、法律は、「兄弟姉妹以外の相続人」、すなわち、配偶者、子、直系尊属が遺留分を有すると定めています(民法1028条)。
 また遺留分は、先にも述べたとおり、亡くなった方の財産処分の自由とバランスをとりながら「相続人に最低限確保しなければならない遺産」を残す制度ですから、いくらでも主張できるわけではありません。
 この点についても法は、直系尊属だけが相続人になる場合は遺産総額の3分の1、その他の場合は遺産総額の2分の1と定めています(民法1028条)。
 では、次に誰にどれだけの遺留分があるのか、具体例を挙げて見ていくことにします。

(2)Aさんの場合
 Aさんは、奥さんと子ども二人を残して亡くなりました。Aさんの財産は全部で3000万円ありました。
 この場合、相続人は奥さんと子ども二人ですから、遺留分は遺産総額の2分の1になります。したがって、
  3000万円×2分の1(遺留分割合)=1500万円
 が、妻子合わせての遺留分になります。
 そして、これを奥さんと子達で法定相続分のとおり分配することになりますので、
 奥さんの遺留分は、
  1500万円×2分の1(法定相続分)=750万円
 2人の子の遺留分は、それぞれ
  1500万円×2分の1(法定相続分)×2分の1(子どもの数)=375万円
 となります。

(3)Bさんの場合
 Bさんは、両親が健在で、奥さんとの間には子どもはいませんでした。そんなBさんが6000万円の財産を残して亡くなりました。
 この場合も、奥さんとご両親が相続人となりますので、遺留分は遺産総額の2分の1になります。したがって、
   6000万円×2分の1(遺留分割合)=3000万円
 が遺留分の総額になります。
 そして、これを奥さんとご両親で法定相続分のとおり分配することになりますので、
 奥さんの遺留分は、
  3000万円×3分の2(法定相続分)=2000万円
 ご両親の遺留分は、それぞれ
  3000万円×3分の1(法定相続分)×2分の1(親の人数)=500万円
 となります。
 少しややこしいですが、ご理解いただけましたでしょうか?

4. 遺留分があると、具体的にはどうなるの?

(1)「遺留分」とは、「相続人に最低限確保しなければならない遺産」であるとご説明しました。つまり、遺留分のある相続人は、遺留分を侵害するような財産処分がなされた場合に、その遺留分を主張して、相続財産の一部を手元に取り戻すことができるのです。
 例えば、先のAさんが、遺言で「愛人○○に2000万円を与える。」と残していた場合(このように遺言により、財産の全部又は一部を与えること「遺贈」といいます。)はどうなるのでしょう。
 この場合のAさんの相続人である奥さんと子ども二人の遺留分は、合わせて1500万円、というのが先ほどの計算結果でした。つまり、Aさんは、奥さんと子ども2人に対して、3000万円の相続財産のうち、1500万円の財産は残さなければならなかったことになります。
 ところが、遺贈が2000万円もなされたため、妻子のもとには1000万円しか残りません。つまり、妻子の遺留分は、合計500万円足りなくなるわけです。
 そこで、妻子は、愛人の遺贈分から500万円を取り戻すことができる、これが遺留分の実際上の意味ということになります。

(2)しかし、ここで注意しなければならないことが2点あります。
 まず、相続人の遺留分を侵害する遺言や遺贈も当然に無効となるわけではない、ということです。
 遺留分を取り返す権利を行使するかどうかは相続人の自由ですから、当然に無効とするまでもない、というのが法の態度です。
 そこで、遺留分を侵害された相続人がその財産を確保するためには、自己の遺留分の範囲まで財産の返還を請求する「遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせきゅう)」の意思表示をしなければなりません。
 次に、この遺留分減殺請求の意思表示できる期間には制限があるということです。
 この点、法は、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から、1年以内にしなければならないと定められています。
 したがって、この期間内に意思表示をしたことを明確にしておくため、遺留分減殺の意思表示は内容証明郵便によってしておくべきでしょう。

5. まとめ

 このように、相続人による遺留分減殺請求権行使の問題は、遺贈を受けた人(受遺者)や贈与を受けた人(受贈者)の立場からすると、侵害している遺留分の額の財産を相続人に返還しなければならないことを意味しますので、返還する額などをめぐって訴訟になるケースが多く見られます。
 ですから、遺言書を作成する場合には、遺産をめぐる争いを防ぐ意味でも、相続人の遺留分に十分考慮しておく必要があるといえるでしょう。
 なお、遺留分については、これまで述べた他に、遺産総額の計算方法、遺贈と贈与の両方がなされた場合はどうするのか、遺贈や贈与が条件付だった場合はどうするのか、などなど、いくつかの問題点があります。これらについては、回をあらためてご説明したいと思います。

財産ドック機関紙フォーチュン 142号掲載

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