更新料事件を考える

2008年03月13日

福井総合法律事務所 弁護士 上田 敦

今回は家主様も新聞等でご存知の更新料裁判、京都地裁 平成20年1月30日の判決を弁護士の上田先生に検証して頂きました。

更新料事件とは?

賃借人である原告が賃貸人である被告に対して、更新料支払の約定(1年更新/更新料10万円)は消費者契約法10条、民法90条に反して無効であるとして、過去5回に渡って支払った更新料(計50万円)の返還を求めた事件です。

裁判の際、重要となった契約内容は次の通りでした。

  • 物件:左京区下鴨に立地、昭和58年1月31日築、鉄骨ブロック4階建て
  • 家賃:1ヶ月 4万5千円(共益費・水道料込)
  • 契約:1年契約(平成12年8月15日~平成18年11月30日)
  • 更新料:1年ごとの更新、更新料10万円
  • 礼金:6万円
  • 敷金:10万円
  • 更新料に関する契約関係書面の記載
    (契約書21条の更新に関する規定、重要事項説明書の契約更新に関する事項)

経緯

原告は平成12年8月15日の契約後、

  • 平成13年9月1日~平成17年8月31日までの5年間、更新の際に更新料10万円を支払った。
  • 平成17年9月1日~平成18年8月31日までの期間に対する契約の更新について、賃借人(原告)からの解約の通知、賃貸人(被告)からの更新拒絶の申し出なく、更新の合意も行われなかった。=法定更新(借地借家法26条)により賃借人(原告)は更新料10万円を支払わず。
  • その後、賃借人(原告)は平成18年9月1日から同年10月31日分までの2ヶ月分の家賃9万円を支払った。
  • 賃借人(原告)は本件の約款第15条(1)の定めに従い平成18年10月28日付けで賃貸借契約解除通知を送付し、平成18年11月30日をもって契約を終了した。

本件の争点のポイント
更新料支払の約定が消費者契約法10条、民法90条に違反するのか?

セミナーでは、消費者契約法10条に絞って解説していただきました。

消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」

消費者契約法は2001年(平成13年)4月1日施行された、事業者と消費者の情報・交渉力の格差に着目して、事業者と消費者との間の契約ルールを定めたものです。
上記のように、消費者契約法10条では消費者の利益を一方的に害する条項を禁じています。

では、原告が主張するように更新料の約定は、「消費者の利益を一方的に害する条項」なのでしょうか?そもそも「更新料」とは何の対価なのでしょうか?

「更新料の対価」とは?

更新料の対価については阪神淡路大震災の時に議論となりましたが、次の三点とされてきました。

  • 更新拒絶権放棄の対価
     賃貸人が更新を拒絶しないようにお金を支払う。
  • 賃借権強化の対価
     更新料を支払って期間の定めのある賃貸借とする(合意更新とする)ことで解約申入れされないようにする。
  • 賃料の補充
     賃貸人は更新料収入を前提に月々の賃料を設定。賃借人も月々の賃料負担を低く抑えられる。

原告の主張

原告の主張では、以下の点によって更新料には合理的な理由がないとしています。

  • 更新拒絶権放棄の対価
     もっぱら他人に賃貸する目的で建築された居住用物件の場合には更新拒絶権が行使できる場面がない。
  • 賃借権強化の対価
     本件の約款15条の(3)には、賃貸人(被告)が6ヶ月前に賃貸人(原告)に通知する事により、本件賃貸借契約を解約する事ができるとされている。 (合意更新をして)期間の定めがあっても、解約することができる条項がある以上は賃貸権が強化されたとは言えない。
  • 賃料の補充
     本件賃貸借契約のような短期間の賃貸借において、短期間の内に賃料不足が生じることは考えにくい。
     また、更新後間もなく解約した場合と更新後期間満了した場合とでは金額が異なるはずがこれを区別していないので、一定の金額で賃料の不足分を算定する事に無理がある。
     更新料を支払うことを前提とした賃料の設定では月々の実質賃料が不明瞭になる。

賃借人(原告)は、本件更新料約定は上記のように「合理的な対価性」を有していないため、「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害する」条項である、と主張。 よって、本件賃貸借契約における更新料は消費者契約法10条に該当し無効であるので、更新料の返還を求めた。

判決はいかに?

  • 更新拒絶権放棄の対価
     本件建物の場合、原告の主張通り、この性質は稀薄であるといえる。
  • 賃借権強化の対価
     期間が短いことで本件建物の場合、この性質も稀薄であるといえる。
  • 賃料の補充
     本件の場合、この性質は認められる。

 本件契約における更新料が、主として賃料の補充(賃料の前払い)としての性質を持ち、10万円という金額を契約期間や1ヶ月分の家賃の金額に照らして直ちに相当性を欠くとはいえないため、 本件更新料約定が民法90条により無効であるとする原告の主張を採用することはできない。

 本件更新料の金額が10万円であり、契約期間や1ヶ月分の家賃の金額に照らして過大なものではないこと、本件更新料約定の内容は明確である上、この約定の存在・更新料の金額について 仲介業者から説明を受けていることからすると、本件更新料約定が原告に不足の損害・あるいは不利益をもたらすものではない
 また、程度は希薄ではあるが本件更新料が更新拒絶権放棄の対価、及び賃借権強化の対価の性質を持っているものと認められることを考慮すると本件更新料約定が「民法 第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」とはいえないものというべきである。 本件更新料約定が消費者契約法10条により無効であるということはできない

 本件更新料約定が民法90条又は消費者契約法10条により無効であるとする原告の主張を採用することはできないから、本件更新料約定が無効であることを前提とする原告の不当利得返還請求には理由がない

よって平成20年1月30日の判決では、原告の請求は棄却されました。

「賃料の補充」について

(1)賃貸人は初年度は礼金6万円と賃料54万円を加算した売上げを、次年度以降は更新料10万円と賃料54万円を加算した売上げ、もしくは新たな賃借人から60万円の売上げを期待しているものと考えられる。(大きな差がないことがポイントか?)

(2)賃借人は物件選択時に礼金、敷金、賃料及び更新料といった経済的な支出を比較検討しているはずである。また更新しなければ更新料は発生しない。

本件更新料約定は賃料支払に関する条項、いわば「賃料の前払い」を取り決めたものであるというべきであるとした。

今回の判決の特徴(まとめ)

・アパート、マンションの場合の更新料は賃料の補充(賃料の前払い)とした。
しかし、法定更新との違いや更新後期間に差がある場合については触れずであった。この点について原告側は控訴審で争ってくると考えられる。

・「更新料」という用語にも問題があり、直ちに賃料を意味する言葉ではなく、消費者に誤解を与える恐れ、また経済的は支出が正しく認識できない恐れがあり、消費者契約法10条により無効となることも今後考えられる。

・消費者契約法10条の要件を満たすかどうかについては、本件更新料の金額が、賃貸人の期待に合理性を認める根拠、賃借人の負担の程度を測るものさしとなり、消費者契約法10条の要件を満たすものとはいえないとした。

このことから、本件事例を前提にする裁判例であることに注意が必要であり、
 ・1年更新で更新料が20万円だったらどうか。
 ・賃料が1万5千円だったらどうか。
 ・2年更新で更新料10万円だったらどうか。
 ・礼金がゼロだったらどうか。
など、契約内容により判例が変ってくる可能性が十分に考えられる。


 上田先生の検証から今後の裁判の行方、「更新料」について安心できない状況にあることが参加家主様にもよく伝わったと思います。
その後の質疑応答の時間も法定更新・合意更新について、消費者契約法、最高裁まで行くであろう本件裁判の行方、今後の京都や全国的な賃貸経営、契約形態のあり方など上田先生への質問や家主様同士の意見交換で予定時間をはるかにこえる時間、活発にディスカッションしていただきました。

また本件裁判の動向についてはフォーチュン、京都ライフニュースなどで随時家主様へ発信させていただきます。
最寄りの仲介営業所や管理部署に本件判決要旨もございますのでいつでもお気軽に申し付けくださいませ。

株式会社 京都ライフ 四条店

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