弁護士から見た事業承継、相続

2009年03月18日

福井総合法律事務所 上田 敦

3月度財産ドック定例セミナーは3月18日に京都ライフ会議室にて福井総合法律事務所弁護士 上田敦先生をお迎えして開催されました。

 日本の全企業の9割が中小企業であるという世の中で、その代表者の平均年齢は58歳と言われています。一般的に事業承継は10年程度かかるという点から昨今、その事業承継や相続の問題が注目を浴びています。

 相続による事業承継の方法として生前贈与と遺言があります。生前贈与とは経営者の生存中に自社株式や事業用資産の所有権を後継者に移転する方法です。経営者は自由に撤回できないという点から後継者の地位安定といったメリットがあります。反面 (1)特別受益として扱われるため遺留分による制約がある (2)高額な贈与税が課税される (3)不当な財産処分を疑われる などのデメリットもあります。
 遺言とは経営者の死亡時に後継者にこれらを取得させる方法で遺留分の制約を受ける他、自由に撤回できるため後継者の地位が不安定になります。

 次に遺言書について基礎的な知識をご紹介します。遺言の方式として民法では (1)自筆証書遺言 (2)公正証書遺言 (3)秘密証書遺言 のいずれかの方式によらなければならないとしています。

自筆証書遺言 文字通り一人で作成する遺言。誰にも頼らず作成できるため最も簡単な方式で費用も掛からない。ただし、書けばよいということではなく、遺言をする人がその全文、日付及び氏名を自署しこれに印を押さなければならない。費用がかからず、法律上の要件さえ守っていれば簡単に作成できるが偽造や変造、隠匿や破棄がされやすい点が問題。実際に自筆証書遺言の変造や偽造を理由として遺言の無効を争う訴訟が後を絶たない。

公正証書遺言 公証人役場にて作成。証人二人以上の立会いの下、遺言をする人が内容を公証人に口述し公証人がこれを筆記することによって作成される。手続的に面倒で費用もかかるがその分安全性が高まる。問題点として遺言の内容が生前に漏れてしまうおそれは完全に否定できず親族間の争いに繋がるおそれがある。

秘密証書遺言 遺言者が作成した遺言書に署名捺印をし、その証書を封じて証書に用いた印章で封印する。遺言者は、公証人一人及び承認二人以上の前に封書を提出し、自分の遺言書であることと、その遺言書を書いた者の氏名及び住所を述べる。公証人や証人といえども遺言の内容を確認することはできない。公証人はこの申述と証書を提出した日付を封紙に記載した後、遺言者及び証人と共にこれに署名をして印を押す。

 遺言書の保管方法は遺言方法により異なるが、生前には容易に発見できず、いざ相続が発生した時には遺族が簡単に発見できるようにしておくのが理想。そして遺族が遺言書を見つけたら、自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合は遅滞なく管轄の家庭裁判所に検認を請求する。公正証書遺言の場合、検認手続きは不要。すぐに遺言内容の執行が可能です。

 最後に遺留分について説明します。遺留分とは、亡くなった方が有していた財産(相続財産)のうち、一定の相続人について一定の割合を「遺し留めておく」財産、つまり相続人に最低限確保しなければならない遺産のことです。

○遺留分は誰がどれだけ主張できるのか?
 遺留分は親族なら誰でも主張できるわけではなく遺留分を有する者として「兄弟姉妹以外の相続人」すなわち配偶者、子、直系尊属が遺留分を有すると法律で定めています。また、直系尊属だけが相続人の場合は遺産総額の3分の1、その他の場合は遺産総額の2分の1となっています。

○遺留分があると具体的にどうなるのか?
 「遺留分」とは「相続人に最低限確保しなければならない遺産」という位置付けから、遺留分のある相続人は、遺留分を侵害するような財産処分がなされた場合にその遺留分を主張して、相続財産の一部を手元に取り戻すことができます。
 例えばAさん(奥さんと子供2人・3,000万円の財産を残して死亡)が遺言で「愛人の○○に2,000万円を与える」と残していた場合、Aさんの相続人である奥さんと子供2人の遺留分は合わせて1,500万円である。→愛人○○に2,000万円を遺贈したため、妻子のもとには1,000万円しか残らない。つまり妻子の遺留分は500万円足りない。→妻子は愛人の遺贈分から500万円を取り戻すことができる。

○注意点
 相続人の遺留分を侵害する遺言や遺贈も無効ではなく、遺留分を取り戻す権利を行使するかどうかは相続人の自由。遺留分を侵害された相続人がその財産を確保するためには自己の遺留分の範囲までの財産の返還を請求する「遺留分減殺請求」の意思表示をしなければならない。また、「遺留分減殺請求」は相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内にしなければならない。

 以上のように本日は相続による事業承継や遺言・遺留分についてお話を頂いたわけですが、その他セミナーの最後には質疑応答のコーナーもあり、皆様、たくさんの相談や質問を先生にされており、非常に有意義な時間になったのではないかと思います。
 当セミナーは様々なテーマをもとに、その都度専門の先生方をお招きし定期的に開催しております。今回のセミナーに関するお問い合わせだけでなく、当セミナーにご興味のある方がいらっしゃいましたら最寄りの京都ライフ営業所又は財産ドック事務局までお気軽にお問い合わせ下さい。

株式会社 京都ライフ 京都駅前店

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