弁護士から見た、正しい滞納入居者への対応

2010年03月17日

福井総合法律事務所 上田敦

はじめに

皆様のマンション運営は健全でしょうか?
いわゆる『滞納問題』といったら、良い思い出がないのではないでしょうか。
「いや、うちはしっかり対応しているから、何とか問題なく運営している。」と頼もしいオーナー様も中には居られることでしょう。またケースがひどい場合は途中から顧問弁護士に丸投げのオーナー様も多いのではないでしょうか?

昨今、消費者保護の観点から貸金業法改正があり、金利はもちろんその取立て方や請求方法に大きなメスが入ったことは記憶に新しいかと思います。賃貸業界では数年前から大きく普及した保証会社の導入等により、未納家賃取立ての激化が注目され、今まさに次の法整備に注視されているところであります。
オーナー様のお気持ちは痛い程、お察し致します。私とて「現に借りて住んでいる物件の家賃を払わない」ことが、まずおかしいと思います。権利は主張するが、義務は果たさない無責任社会への助長だと感じます。

しかし、未だ強い賃借権で守られた滞納入居者に更に消費者保護が輪を掛けてやってくるということです。文句を言っても集金出来ないどころか、滞納入居者に取立てが強引だから精神的苦痛を受けたと、逆に訴訟され貰うはずが多大な慰謝料を強いられるといったケースまで出てきました。
そこで簡単に質問です。滞納が発生したらどのように対処されていますか?
 ・職場へ連絡を入れる
 ・連絡が取れないから、玄関に大きな張り紙をしている
 ・夜に何回も取り立てに部屋に行く
 ・自分じゃ言いにくいから部屋付けしてくれた仲介営業社員に頼む
 ・1日何回も電話し続ける
 ・カギ交換する又はカギロックする
 ・水道栓を締める

これはほんの一例ですが、すべてグレーゾーンから完全にアウトの取立て方法で滞納入居者に逆に訴訟された事例があるものです。如何でしょうか?
その場と相手の状況にもよりますが、滞納が増える中、オーナー様側も危険になってきます。ここは今一度しっかり基本的な正しい滞納処理と滞納入居者対応をご理解頂こうと、今回の3月度セミナーは、3月17日に福井総合法律事務所より弁護士の上田敦氏を講師に迎え「弁護士から見た、正しい滞納処理・滞納入居者対応」をテーマに、セミナーを開催させて頂きました。それでは流れを順に見ていきましょう。

第1 相談内容の特徴

オーナー様からの相談案件のトップ 滞納問題

その特徴は...
 ・長期滞納案件 (滞納期間1年分以上は珍しくない)
 ・督促が不十分
 ・立ち退きを求めようとしたときには行方不明

初期(滞納1ヶ月~2ヶ月分)段階の対応がまず重要。中期(滞納3~4ヶ月分)、終期(滞納半年分以上)でそれぞれどういった対応をすべきか、予めマニュアル化しておく。弁護士に相談してマニュアル作成を依頼するのも一つ。賃借人との個人的事情を介入させないこと。

第2 家賃滞納の原因

・悪質賃借人(はなから滞納を意図)
→入居時の審査の問題

・うっかり失念
→最初は「うっかり」でも滞納が重なると...。

・経済的事情の悪化
→家賃支払いの優先順位は実は低い?

ローン、サラ金などは督促が強い。それに比べて賃料請求はどうか。

衣食住は生活の基本
  「衣」は、我慢すれば済む話。新たな支出を伴わないはず。...我慢できない人も。
  「食」は、絶対必要なもの。支出を伴う。
  「住」は、1,2ヶ月滞納してもすぐに追い出されないだろう。と思われがち?


第3 初期(滞納1ヶ月~2ヶ月分)段階

督促する
→簡単そうで実はできていない。

賃料の管理
・オーナー自ら管理しているか、管理会社に委ねているか。

・管理会社に委ねている場合、どこまで委ねているかを十分理解しておく。
→メンテナンスのみか、家賃集金・未納にも対応してもらえるのか

・自動集金サービスの場合
家賃引き落とし日に未納が発生→管理会社が未納を確認→督促状を作成・郵送。
この間、早くて約1週間くらい。

実際の督促方法
(1)とにかく家賃滞納を早期に把握、迅速に督促
→管理会社との密な連絡
→管理会社も滞納情報を早期に連絡するシステムを構築
→迅速な督促。まずは電話でよい。滞納翌日にはまず一報を。その際、入金予定を確認。

(2)入金予定を過ぎても入金がない
→直接訪問。あるいは再度電話で連絡。入金出来なかった事情と、入金予定を再度確認。
→それでも入金がない場合には、書面で通知。この段階の書面通知はポスト投函でよい。書面の案は予め準備しておく。通知内容は穏便に。通知文のコピーはきちんと取っておくこと。日付を入れるのを忘れない。

この段階のポイント

滞納状況の早期把握と、早期対応。この段階の滞納を如何にして解消するかが事態を重大化にしない大きなポイント。
賃借人との信頼関係を損なわないように配慮すること。


第4 中期(滞納3~4ヶ月分)段階

内容証明郵便による督促状の発送

(1)内容証明郵便とは
「誰が、誰宛てに、いつ、どんな内容の手紙を出したのか」ということを郵便局(郵便事業株式会社)が公的に証明してくれるもの。
①手紙を出したこと、②手紙を出した日付、③手紙の内容、を郵便局(郵便事業株式会社)が証明してくれる。
ただし、一行に書く文字数が決まっているなど書式に一定の制限がある。文具屋に内容証明郵便のキットが販売されているので、これを利用すれば簡単に作成できる。

(2)内容証明郵便の効果
後日紛争・裁判手続きとなった際の証拠

(3)内容証明郵便通知に書く内容
賃貸借契約の内容、滞納している金額、支払い請求、支払いがなければ賃貸借契約解除・明渡し・法的手続きの着手に至る可能性があることを明記。
ただし、具体的な文面については、ケースバイケースで考える。交渉の余地がある場合にはソフトに、悪質な場合には法的手段を視野に入れた文面を。
また、この段階で弁護士に依頼されるのも1つ。通知作成のみの依頼も可能。

(4)送付先
入居者のみならず、連帯保証人にも忘れず送付すること。

この段階のポイント

滞納金額も大きくなっていますので、訴訟も考慮した応対が必要。


第5 終期(滞納半年分以上)段階について

1.連帯保証人への督促

→意外に後回しになっているケースが多い。
連帯保証人に連絡したことで解決するケースも多い。

2.その他の事実上の方法は?

(1)勤務先に行く
→気をつけないと脅迫、恐喝と言われかねない。

(2)水道供給の停止は?
→区分所有マンションの管理費滞納の事案につき判例あり。
「給湯という日常生活に不可欠のサービスを停めるのは諸経費の滞納問題の解決について、他の方法を取ることが著しく困難であるか、実際上効果のない場合に限って是認されるものと解すべきである。」(東京地判平2.1.30判例時報1370・83)。
管理組合側の停止行為が権利濫用として不法行為責任が認められた事案。

4.法的手続について

(1)支払督促
<特徴>
・ 債務者が2週間以内に異議の申立てをしなければ、裁判所は、債権者の申立てにより、支払督促に仮執行宣言を付さなければならず、債権者はこれに基づいて強制執行の申立てをすることができる。
・ 金銭の支払又は有価証券若しくは代替物の引渡しを求める場合に限る。
・ 債務者が支払督促に対し異議を申し立てると、請求額に応じ(140万円がライン)、地方裁判所又は簡易裁判所の民事訴訟の手続に移行する。

(2)少額訴訟
<特徴>
・ 原則1回の審理で、双方の言い分を聞いたり証拠を調べたりして、直ちに判決が言い渡される。
・ 60万円以下の金銭を請求する場合に限られる。
・ すぐに裁判資料が用意出来ること。契約書と滞納が証明出来る資料があればよい。
・ 相手方が希望する場合、相手方が行方不明の場合、裁判所が少額訴訟で審理することが相当でないと認めた場合などには、通常の民事訴訟手続に移行する。

支払督促か、少額訴訟か
<共通点>
簡易迅速な手続き
<相違点>
・ 支払督促は相手方住所地の簡易裁判所、少額訴訟は当方住所地の簡易裁判所でも可。
・ 支払督促は請求金額に上限無し、少額訴訟は有り。
・ 支払督促は審理しない、少額訴訟は審理し判決。
 →相手が応じてきそうかどうかによって判断が問われる。応じる様子がなければ判決が出る少額訴訟の方が有利か。
<問題点>
・ 支払督促も少額訴訟も、金銭請求(未払い賃料)の請求に限られる。
 →契約解除、建物の明け渡しは別途手続きが必要。
 →未払い賃料の回収ができれば契約自体は継続しても良い、というときに取るべき法的手段といえる。

(3)通常の民事訴訟
多額の賃料不払いがあった場合、一旦支払われたとしても今後、また滞納する危険が大きい。そんな賃借人には退去してもらい、新たな賃借人に入居してもらう方が長い目で見れば安定した経営ができる可能性が大きい場合あり。
→このような場合には通常訴訟の提起が適切。
<特徴>
・ 未払い賃料の請求と建物の明け渡しを求めることができる。
・ まずは契約解除通知が必要。簡単そうで難しい。
・ 占有移転禁止の仮処分を申し立てて、第三者に占有が移転しないように手だてを要するケースあり。
・ 単なる賃料不払い事件で、相手方に争う姿勢がなければ、実質1回で審理を終えて判決となる可能性大。
・ 相手方が出廷すれば訴訟上の和解の可能性もある。そこで未払い賃料の支払い方法、合意解約、明け渡しの時期、方法が具体的に詰められる可能性あり。
・ 通常訴訟を提起すべき事案では未払い賃料の回収が困難なケースが多い。訴訟の目的は強制執行で部屋を明け渡してもらい、次の賃借人に貸すことを目的と考えるべき。

(4)明渡しのための手続き
・ 建物明け渡しを認める判決に基づく不動産強制執行を行う
・ 部屋の中の動産についてはどうするかも考える必要有り。
未払賃料の回収を図る名目で動産執行を申し立てる。
→換価価値のある動産は競売にかけて代金から賃料回収に充てる
→しかし、たいては換価価値のないものばかり
→動産執行は不能で終わる(民事執行法129条1項)
→執行官の許可を得て約1ヶ月間保管ののち、職権で競売。競売代金は執行費用と相殺。実際には、家主の側で依頼した業者が保管、競落、処分する。債権者の側で保管するケースもある。
・ 執行に必要な費用
執行のための予納金(裁判所に納めるもの)
動産運び出しのための業者費用、動産処分費用など
場合によっては鍵業者の費用

この段階のポイント

滞納額が半年分以上にも及んでおり、連帯保証人に連絡しても解決しない場合には、一日も早く法的手続きを取ることが最短の道。
その場合、支払催促か、少額訴訟か、通常の民事訴訟かを相手の態度や状況に応じて的確に選択する必要がある。


まとめ

以上が滞納処理の基本的な流れになります。
滞納処理は初期が肝心です。如何に業務的かつ迅速に行動に移せるのかが最重要です。消費者保護風潮から訴訟が激化する中、オーナー様が一人で立ち向かうことは今後かなりの努力を強いられることと思います。
オーナー様の中には総滞納金額が多くなり、プロの管理業者に管理料を支払っていたほうが安くつくケース多くあるようです。私たちもオーナー様の大切なマンションをお預かりさせて頂いている使命から、現状把握から分析し対策を常に行っています。お任せ頂いているオーナー様には通常費用が高くつく滞納保証までもしていないものの、深い折衝から獲得した提携会社と力を合わせ、実質滞納保証と言っても間違いのないレベルで運営させて頂いております。
「しんどいし、不安だ。」とお思いのオーナー様、お気軽にいつでもご相談下さい。
弊社としても、社員一同微力ながら全力でオーナー様の目となり耳となり、最新の情報集積と対策を講じていく所在ですので、今後とも宜しくお願い申し上げます。

株式会社 京都ライフ 今出川店

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