賃料の決め方、決まり方

2014年09月08日

株式会社関西総合鑑定所 不動産鑑定士 杉若 浩孝

去る平成26年9月8日京都ライフ本社会議室にて、株式会社関西総合鑑定所 不動産鑑定士 杉若浩孝先生をお迎えし「賃料の決め方、決まり方」を議題とした9月度財産ドック定例セミナーが開催されました。

人口減少、少子高齢化の進展等、賃貸経営を取り巻く環境が厳しくなる中、借り手市場による賃料減額等のリスクに対しどのように対応していくか。
賃貸マンションを経営されるオーナー様にとって一番身近であり、重要である賃料に関する議題とあって、22名と多くのオーナー様にご参加いただき、最後の質疑応答でも活発に質問が飛び交うなど、活気あるセミナーとなりました。

1.新規賃料の決め方、決まり方

新たな賃貸借契約において成立する賃料の事で、法令による制約等はなく自由に決める事が出来るのが新規賃料です。実務では居住用物件では対象物件の現状の賃料水準や過去からの推移、周辺相場等で決められる事が殆どです。空室率が高い場合には、相対的に高い可能性が考えられ、少しずつ募集賃料を下げて行き、ある水準で入居が決まりだしたら、その水準が適切な新規賃料という事になります。
新規賃料で鑑定評価が求められるのは主に事業用物件の新規賃料設定時、また特優賃など適正な新規賃料による募集が義務付けられている物件に対し、その証明として鑑定評価が依頼されます。

◆新規賃料の鑑定評価の手法-積算法と賃貸事例比較法-

1)積算法:対象不動産の基礎価格を求め、これに期待利回りを乗じて得た額(純賃料)に、必要経費を加算して求める方法です。

積算賃料=(基礎価格×期待利回り)+必要諸経費

  • ※1 基礎賃料は積算賃料を求めるための基礎となる価格(対象不動産の価格)
  • ※2 必要諸経費は建物の減価償却費、維持管理費、公租公課、損害保険料等

2)賃貸事例比較法:賃料は周辺の賃貸市場における賃料水準を反映し決められます。この事を鑑定評価に取り入れた手法です。

  • 新規の賃貸事例から対象不動産と類似する事例を選択する。
  • 選択した賃貸事例に、必要時応じて事情補正及び時点修正を行う。
  • 選択した賃貸事例と対象不動産を比較して、地域的要因、個別的要因の比較を行う

上記のような形で新規賃料の鑑定が行われます。

2.継続賃料の決め方、決まり方

賃貸借の継続に係る特定の当事者間において成立する賃料。(この場合の特定の当事者間は賃貸人と賃借人)借地借家法32条において現行賃料が経済的情勢等の変動により不相当となった場合には、当事者間は増減額の請求が出来るとなっており、話し合い、調停、裁判により賃貸借当事者間の問題として決定される事になります。
この継続賃料で問題になるのは主に賃料増減額の請求が生じた時です。

減額請求された場合のポイント

  • 賃借人が賃料減額請求をしてきた場合、賃借人は減額を拒否することが出来ます。
  • 協議がまとまらない場合、賃借人はいきなり訴訟を申し立てるのではなく、まずは賃料減額の調停を起こす必要があります(調停前置主義、民事調停法第24条の2)。
  • 調停でもまとまらない場合、賃料減額請求の訴訟を申し立てることになり、そこで減額が相当という判決が確定して初めて減額が認められます。この場合賃貸人は、減額請求があった日から判決が確定まで超過額に年1割の利息を上乗せして賃借人に返還する必要があります。
  • したがって賃借人は、判決確定までは従来通りの額で賃料を支払う必要があり、勝手に減額した賃料を支払った場合には債務不履行で契約違反となります。
  • 注意点として、賃借人が勝手に減額した家賃を、賃貸人が受け取ってしまうと、賃料減額について合意が成立したものとみなされてしまう恐れがある事です。
  • 逆に、賃借人が賃貸人に支払う賃料は、裁判が確定するまでは現行賃料を支払っておく必要があります。

賃料増減請求がなされる場合

借地借家法第32条1項において土地若しくは建物に対する租税や建物価格の上昇、低下その他経済事情の変動により近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき、借賃の額の増減を請求する事が出来るとなっており、現行賃料が不相当になったかどうかを判断されることになります。この場合の注意点は契約当初と賃料改定時点を比較して、賃料が不相当となったかどうかが重要なポイントとなります。契約当初から、通常と比べて不相当であった場合には、より一層低廉になったような場合でないと不相当となったとは云えません。

◆継続賃料を求める鑑定評価の手法-差額分配法とスライド法-

1)差額分配法-新規賃料と現行賃料との間に発生している賃料差額を適切に配分して継続賃料を求める手法です。

差額配分法による賃料=現行賃料+(新規賃料-現行賃料)÷2

差額の分配については、特別な理由がない限りは、一般的に折半法(差額の2分の1の配分方法)が適応されます。
※注意点 公租公課や経済的事情の変動がない場合でも、差額が生じている限り常に新規賃料に近づいてしまいます。

2)スライド法-現行賃料を定めた時点(最終合意時点)から価格時点(賃料改定時点)までの変動率を求め、この変動率を現行賃料に乗じて資産賃料を求める手法です。

スライド法による賃料=現行賃料×変動率

変動率は、現行賃料を定めた地点から価格時点までの間における経済情勢等の変化に対応するもので、土地及び建物価格の変動、所得水準の変動等を示す各種指数等を総合的に勘案して求められます。
戦後よりバブル崩壊までの不動産価格が長期にわたり上昇してきた時代は差額分配方が特に重視されてきましたが、近年はスライド法が重視される傾向があります。

最後に今後生じる可能性がある問題として紹介されたのが、現行賃料>新規賃料となってきている問題です。長年にわたり入居している賃借人の賃料よりも新規に入居する賃借人の賃料が安くなることですが、実際このような場合どうすべきか意見が分かれているようです。まずは、UR賃貸のように新規賃料を重視し、現行賃料を新規家賃まで減額すべきという考え方。そして契約は守らなければならないという私法の大原則から現行賃料を尊重すべきという考え方です。当面は現行賃料重視の考え方で問題はないとの見解でしたが、それでも若干の下落はやむを得ないとの事です。
賃貸経営を行う上での様々な問題に対しての対処法、また未然に防ぐ為の知識等、財産ドックの定例セミナーでは毎回それぞれの分野で専門の先生をお迎えしオーナー様に分かりやすく解説していただいております。詳しくは最寄りの京都ライフ各店までお気軽にお問い合わせくださいませ。お一人でも多くのご参加を心よりお待ちしております。

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