更新料裁判・督促規制法案の動向

2011年03月09日

弁護士法人 舩橋 恵子

平成23年3月9日、京都ライフ本社会議室にて弁護士の舩橋恵子先生に、更新料裁判、督促規制法案に関し講演いただきました。

<更新料とは>

マンション等の賃貸借契約で使われており入居者がオーナーに対し、家賃の1~2ヶ月分程度の金員を更新時に支払うもので、主に首都圏、京都などに存在する。
もともとは戦後の土地高騰による土地賃貸借契約において、賃料の調整として始まったとの説もある。

更新料に関する裁判の動向

1、京都地裁 平成16年5月18日(入居者側の主張を肯定)

法定更新に更新料の支払い約束が適用されないとした。
(法定更新:半年前の更新拒絶通知、正当事由、遅滞なく異議を述べることの一つでもなければ法律の規定により更新されること。)

2、京都地裁 平成20年1月30日(入居者側の主張を否定)

更新料支払条項が無効であるとの主張を退けた判決。

→【2008/03 セミナーレポート「更新料事件を考える」へ】

3、大阪高裁 平成21年8月27日(入居者側の主張を肯定)

更新料特約を、消費者契約法10条により無効とした。

(1)更新拒絶権放棄の対価
「他人に賃貸する目的で建築された居住用物件の賃貸借契約においてはもともと賃貸人は賃料収入を期待して契約を締結しているため・・・・例外的事態を除けばそもそも更新拒絶をすることは想定しにくく・・・。仮に例外的な事態として賃貸人が更新拒絶をしたとしても、建物の賃貸人は正当事由があると認められる場合でなければ、建物賃貸借契約の更新拒絶をすることが出来ず(借地借家法28条)、賃貸人の自己使用の必要性は乏しいため、通常は更新拒絶の正当事由は認められないと考えることができるから、更新料が一般的に賃貸人による更新拒絶権放棄の対価の性質を持つと説明することは困難」(主文抜粋)
(2)賃借権強化の対価
「通常は、賃貸人からの解約申し入れの正当事由は認められないと考えられる。したがって、本件更新料を評して賃借権強化の対価として説明することも難しいというべきである。」(主文抜粋)
(3)賃料の補充
「仮に本件更新料が本来賃料であるとすれば、当然に備えているべき性質(例えば、前払賃料であれば、賃借人にとって有利な中途解約の場合の精算)も欠いている以上、法律的な意味で当事者双方がこれを民法、借地借家法上の賃料として認識していたということはできず、法律的にこれを賃料として説明することは困難であり、本件更新料が賃料の補充としての性質を持っているということもできない。」(主文抜粋)
(4)消費者契約法10条
「(更新料約定の存在により)賃借人に無視できないかなり大きな経済的負担が生じるのに、本件更新料約定は、賃借人が負う金銭的対価に見合う合理的根拠は見いだせず、むしろ一見低い月額賃料額を明示して賃借人を誘引する効果があること、賃貸人と賃借人との間においては情報収集力に大きな格差があったのに、本件更新料約定は、客観的には・・借地借家法の強行規定の存在から目を逸らさせる役割を果たしており、この点で、賃借人は、賃借人は実質的に対等にまた自由に取引条件を検討できないまま・・・これは消費者の利益を一方的に害するものということができる」(主文抜粋)

4、大阪高裁 平成21年10月29日(入居者側の主張を否定)

更新料は消費者契約法10条に違反しないとして更新料を有効とした。

(1)消費者契約法10条後段に該当するか否かの基準
更新料条項が、消費者の利益を、信義則に反する程度にまで侵害するか。
更新料条項によって、事業者と消費者の利益状況に合理的でない不均衡が生じているか否か
(2)(1)の基準に照らした判断
・貸主が、賃貸借契約を締結するに当たり、賃借人に対し、賃貸借期間の長さに応じた賃借権設定の対価を求めることは、貸主が資本を投下して賃貸経営に当たっており、資本投下額以上に収益を上げなければならないことからすれば合理的
・更新料は、賃借人にとっても有利な側面がある。
・更新料の支払により、期間の定めがある契約として更新される場合多し
・月額賃料が抑制される。
・中途解約の予告期間が短く設定されるケース多し。
・更新料を更新期間で割戻し、月額賃料に加えたとしても、賃料の1割にも満たない増額にしかならない。また、借主が事前に算定可能。
・借主は、更新料条項を押し付けられたわけではない。他の物件の条件と比較検討対照の上本件物件を選択した。
・契約時において、礼金が設定されており、更新時に更新料の支払が必要とされていることから、更新料が礼金の補充であることを理解可能であった。
・更新料が返還されないことは承知の上での契約であり、不足の損害を受けない。また、中途解約は借主の事情。
・更新した時点において、2年分の延長を得た借主としての地位を取得
5、その後の裁判例

(1)特約を無効としたもの(入居者側の主張を肯定)

京都地裁 平成21年7月23日
賃料月額5.8万/期間2年/更新料2ヶ月分
京都地裁 平成21年9月25日、大阪高裁 平成22年2月24日
1)賃料月額3.8万/期間1年/更新料2ヶ月分
2)賃料月額5.3万/期間2年/更新料2ヶ月分

(2)特約を有効としたもの(入居者側の主張を否定)

大津地裁 平成21年3月27日、大阪高裁 平成21年10月19日
賃料月額5.2万/期間2年/更新料2ヶ月分
→ 更新料を主として賃料の補充であるとして、更新料を積極的に意義づけた上で、特約が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するとは認められないとした。

(3)京都地裁 平成22年10月29日判決(入居者側の主張を否定)

賃料月額4.8万/期間1年/更新料10万円
更新(3回)時に支払った合計30万円と遅延損害金を求めた事案
→ 更新料は賃料の前払と途中解約した場合の違約金の性質を併有しているところ、賃料の前払いの側面については、賃料は必ず月額で定めなければならないものではなく、賃料の前払いによって、賃借人が信義則に反する程度に一方的に不利益を受けるということはできない。
違約金の側面については、賃貸借契約を途中で解約した賃借人については、更新料の額や途中解約した時期によっては、消費者契約法9条1号により、特約が一部無効となる事案があると考えられる。
本件原告については、結論として特約は有効とした。
6、現状

上記のように、更新料の有効、無効を争う裁判は数多く行われており、判決が分かれたところとなっています。
更新料が消費者契約法10条に違反であるか否かの判断は今後も注目されているところですが、現状は確たる結論が出ていないため、更新料と消費者契約法との関係は確定できていません。

督促規制法案(賃借人の居住の安定を確保するための家賃債務保証業の業務の適正化及び家賃等の取立行為の規制等に関する法律案)について

1、法案の概要

1)家賃債務保証業の登録制度
2)家賃等弁済情報データベースの登録制度
3)家賃等に係る債権の取り立てに関する不当な取立行為の禁止
第60条:家賃債務保証業者、住宅の賃貸事業者、賃貸管理業者による不当な取立行為の禁止(取立の委託先も含む)
<具体的に禁止される行為>
・面会、文書送付、貼り紙、電話等、手法を問わず人を威迫すること
・人の私生活または業務の平穏を害するような言動
<罰則>
・2年以下の懲役、もしくは300万円以下の罰金。または併科。

2、影響

現在審議となっているこの法案は、悪質な滞納者に対する督促が困難になる可能性が有り、第60条中の「人を威迫する」「平穏を害するような」という表現だけでは具体的に「どこまでが許されて、どこからは禁止されるのか」が明白にならず、事務ガイドライン等で具体的な言動の許否基準が示されることとなる。
悪質な滞納者に対する督促が可能であることを、パブリックコメント制度等を利用して明白に確認しておくことが重要。

パブリックコメント制度 : 国の行政機関が政令や省令等を定めようとする際に、公衆(国民、都道府県民、市町村民など)から意見を募り、その意見を考慮しながら最終決定を行う仕組みのこと。


督促規制法は過度なまでに消費者保護に偏っており、事業者たるマンションオーナー様にとりましては逆風が続いております。これからの賃貸経営においては、法律家や専門業者と連携して、悪質な入居者に対処していく術も必要になると考えられます。
今後も、オーナー様にとり有益な情報をご提供できるよう努力して参りますので、お悩み事、ご相談等が御座いましたら是非、財産ドックまでお気軽にお問合せ下さい。

株式会社 京都ライフ 今出川店

一覧に戻る

資産運用のご相談は
こちらから

財産ドック株式会社

財産ドック株式会社

〒604-8186
京都市中京区御池通烏丸東入梅屋町361-1 アーバネックス御池ビル東館3階 財産ドック事務局(京都ライフ本社内)

TEL075-256-8240

FAX075-344-4664

営業時間9:30~19:00 年中無休(盆・正月を除く)

ご相談はこちらから